学校で椅子を作るにあたって、最近は椅子に関する本を読み漁っています。
その中で特に面白かったのがコレです。
矢田部英正 著
晶文社
最近の椅子は人間工学に基づいて作られているものが多く、教本もそういったものがほとんどです。もちろん、統計的に得られた数値データを基にして作られる椅子は座り心地が良く、疲れにくいと思います。しかし、友人の家にあったアーロンチェアーに初めて座ったとき、何だか自分が機械の一部になったような気がしました。個人的には、身体をすっぽり覆われているのがあまり好きではないです。
この本では、人間工学に頼らない、人間本来が持つ身体能力を活かした椅子に論点を置いています。
中国の文化を広く受け入れていた日本に、なぜ優れた椅子が広まらなかったのか?
それは古来から日本人は着物を着ていたからです。着物の帯が背板に当たって邪魔になります。着物は帯を締めることによって姿勢を無理なく保持する機能があり、椅子のように無理やり矯正する必要がなかったのです。椅子が伝わる何百年も前から、日本には優れた着物文化が出来上がっていたからです。
西洋では、道具を合理的に、機能的に進化させています。一方日本では、道具に依存することなく技を磨くことを良しとしています。これは私たちの身近にある、鋸(のこ)や鉋(かんな)にもいえることです。これらを引いて使うのは日本くらいのものです。押したほうが力を入れやすい。しかし、日本人は美しい仕事をするために、道具に依らず己の技の探求を選んだなんてとてもかっこいいじゃないですか。
この本では、多少人間工学に対して否定的ではありますが、私はこの考え方はとても大事なことだと思います。読み終わってから、背筋がピンっとなりました。